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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)935号 判決

原告 有限会社浜田商店

右代表者代表取締役 浜田武三郎

右訴訟代理人弁護士 萩原剛

右訴訟復代理人 早瀬川武

被告 不二食品株式会社

右代表者代表取締役 小森末治郎

右訴訟代理人弁護士 水谷昭

平田英夫

主文

一、被告株式会社は、原告有限会社に対し、三三〇、一六九円、及びこれに対する、昭和三八年九月一日から、支払ずみに至る迄、年六分の金員の支払をせよ。

二、訴訟費用は、被告株式会社の負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

原告有限会社訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決及び、仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、被告株式会社は、原告有限会社にあて

(1)  昭和三八年六月一三日、金額を一四六、九六五円、満期を同年七月八日

(2)  同年七月一一日、金額を一八三、二〇四円、満期を同年八月一二日

いづれも支払地及び振出地を長野県佐久市、支払場所を株式会社八十二銀行岩村田支店とする約束手形各一通合計二通(手形金額合計三三〇、一六九円)を振出し

二、原告有限会社は、右各満期支払場所に於て、被告株式会社に支払の為これを呈示した。

よって原告有限会社は、被告株式会社に対し、右約束手形金合計三三〇、一六九円、及びこれに対する右各満期の後昭和三八年九月一日から、支払ずみに至る迄、手形法所定の年六分の利息の支払を求める。

被告株式会社が抗弁として主張する

(一)の事実を認める。

(二)の事実中、被告株式会社が、債権者集会後、債権者委員会管理の下に、ハム、ソーセージの製造販売業を続けていることを認め、その他の事実を否認する。

(三)の主張を争う。被告株式会社は、その債権者委員会に於て、再建を適当とする結論が下されたからこそ、自陳するようにハム、ソーセージの製造販売を営んでいるのである。従って原告有限会社が被告株式会社に対し係争約束手形金の請求をするのは、何等妨げがない。

乙第一号証の成立を認める。第二、第三号証の成立は知らないと述べた。

被告株式会社訴訟代理人は「一、原告有限会社の請求を棄却する。二、訴訟費用は、原告有限会社の負担とする。」との判決を求め、原告有限会社主張の事実を認める。

抗弁として(一)被告株式会社は昭和三八年七月手形不渡を出したので、同年八月二三日、東京都芝高輪西台町一番地港区役所高輪支所に於て、債権者集会を開き、債権者五三社の内、原告有限会社を含む三八社の代表者が出席した。

右債権者集会に於て、被告株式会社を再建する方針が定められその為、七社を以て、債権者委員会が結成された。

右債権者委員会は、一般債権者に対し、被告株式会社を再建することの適否の結論が出る迄、被告株式会社に対し、仮差押、仮処分、本案訴訟、その他の裁判手続を行使しないことを呼びかけ、原告有限会社は昭和三八年五月三日、それを承諾し、その念書が作成された。

(二)被告株式会社はその後債権者委員会管理の下に、ハム、ソーセージの製造販売業を続けて居り、債権者委員会は被告株式会社を再建すべきではないという結論を出していない。

三、従って、原告有限会社は、右結論の出ていない現在に於ては、被告株式会社に対する裁判上の手続による手形債権の行使を放棄したか、少くとも、弁済期が到来していないものであるからその請求は失当であると述べ、

証拠として≪省略≫

理由

原告有限会社がその請求原因として主張する事実は、被告株式会社が自白したところである。

被告株式会社が抗弁として主張する(一)の事実は、当事者間に争がない。しかしながら、その念書の趣旨自体は、原告有限会社をして、係争約束手形債権につき、訴訟を為す権能及び強制執行権を、債権者委員会が再建適否の結論を出す迄とはいえ、放棄せしめるものであって、憲法第三二条の規定する裁判を受ける権利を侵害する点に於て、無効といわなければならない。その趣旨は、たかだか、原告有限会社をして、右結論が出される迄、係争約束手形債権の弁済の猶予を規定したものと解せざるを得ない。

しかるに、≪証拠省略≫によれば、被告株式会社の債権者委員会の委員長落合吉治郎は、昭和四〇年二月二七日付で、被告株式会社には、同年同月同日迄に再建不能という結論が出されていないこと、被告株式会社は、その自陳するように、昭和三八年九月三日以後、今日迄、ハム、ソーセージの製造販売業を継続しているのみならず、借入先の金融機関には、借受金の金利を支払い、多数債権者に対する債権の弁済の為に資金を積立てていることが認められるから、債権者委員会としては、既に再建可能の結論を出しているものと推認せざるを得ない。この認定に反する部分の被告株式会社代表者本人尋問の結果は当裁判所の採用しないところである。

そうすると、係争約束手形金の弁済期は、既に到来しているものと謂わざるを得ず、被告株式会社の抗弁は、排斥を免れない。

冒頭判示の事実に基く原告有限会社の請求は、正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 鉅鹿義明)

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